受験者の声#06

株式会社 尾野農園
代表取締役 尾野弘季さん

私は、今から約20年前、23歳の頃、サラリーマンを辞め、農業をしようと決意しました。農業に自分の可能性を掛けてチャレンジしたいという想いから、思い切ってサラリーマン生活に終止符を打ち、農業の世界に飛び込んだのです。

初めは、イチゴのハウスを建て、イチゴづくりから始めました。イチゴは高設のロックウール栽培でしたので、一切土を使わない農業を行っていました。イチゴづくりを8年ほど続けた後、露地野菜を植えるようになり、土との関係が始まります。まずは青ネギを栽培し始めました。しかし、露地野菜を作り始めた時は土づくりにはあまり関心がなく、化成肥料を多量に散布して青ネギを育てていました。最初2年ほどは、地力を消耗しながら、素人ながらも綺麗なネギができていましたが、3年、4年と経つうちに段々と青ネギが病気にやられたり、生育が揃わなかったり、生育スピードが明らかに遅くなったりする現象が現れてきました。原因は何だろうと考察しておりましたが、これは土づくりを全く行っていなかったことが原因ではないかと思い始めました。

その頃から土づくりという事を真剣に考えるようになってきました。まず堆肥を一年ごとに投入していきました。近くの牛飼さんから牛糞を分けてもらって、それを田んぼ一面に散布していきました。その頃は散布する機械もなく、人力のみで散布したのを覚えています。しかし、堆肥を1回、2回入れたからといって土は劇的に変化しません。少し良くなった、ほぼ変わらないといった感じで年月が過ぎていきました。それと併用して化学肥料を減らし、なるべく有機肥料を使うといったことも考えていきました。しかし有機肥料は化成肥料より単価が高く、経費を考えると、すべてを有機肥料主体のものに変えるといった決断はできずに、両方を併用していました。そして、ソルゴーを緑肥として圃場にすき込んで土づくりをさらに進めていきました。そうすることで、徐々に青ねぎにも変化が見られ、先枯れしにくく、揃いもよいものが徐々に収穫できるようになってきました。

また、土壌検査を行い、化学的な数値を毎年記録し、定点観測を行っていきました。そうすることにより土壌と作物の関係が徐々に頭の中で整理されて、土の状態と作物の状態がリンクするようになってきました。

有機肥料を主体にすると青ネギの色の出方や、艶が良くなるといった変化が見て取れるようになります。そうすると、注文数も増え、それと共に従業員さんも増えていきました。

しかし農業経験がない従業員さんが増えてくると、土壌に対する知識がないのでその指導方法をどうしていくかといった問題が出てきました。まったく土に関する知識を持ち合わせておらず、どうやって教えていくべきか思案しておりました。

そんな時、農家仲間の所を訪問した際に、「土壌医という資格を取ったよ」という話を聞きました。それまで土壌医という言葉は聞いたことがなく、「何のことかな?」と思っておりましたが、調べてみると土壌の基礎的なところから専門的なところまでの資格試験だといったことが分かりました。

そこで、弊社でも資格取得環境を整えていくことにしました。まずテキストを全員分購入し、週一回の勉強会の時にみんなで土壌医のテキストの読み合わせを行いました。基本的な用語が分からない、入ったばかりの従業員さんには、それらを解説して覚えてもらいました。読み合わせ終了後、現場を実際に観察する時のポイントや土壌と作物の関係性について、最後に私が解説するといった流れで、社内学習を継続していきました。

教える側としても、テキストがあることで、それに沿って教えて行くという流れができ、非常に助かりました。それ以前は、私が参考になる土づくりの資料を集めてきて説明しておりました。テキストで教えることで、指導効率もアップしました。

従業員さんたちも、資格取得という目標を置くことで、勉強するための基準がはっきりしてモチベーションアップにつながり、非常に良かったと思います。

今まで自分たちの圃場で行ってきた土づくりが、理論と結びき、理論と工程が一致した上で作業が行えるようになってきました。そういった理解が個々の従業員さんの中で深まるにつれて、作業の丁寧さが増してきたように思います。

現場は毎日動いているので、全員が一度に試験を受けるわけにいかず、今年は3名が受験しました。毎週の勉強会に加えて、個々の勉強の成果が上がり、全員合格いたしました。来年は残りの方に受験してもらい、より土壌に関する知識を深めていきたいと思います。そして、2級、1級にチャレンジする環境を社内で整えていき、作物と土壌の関係についての理解をさらに深めていきたいと思います。