農業者育成と土壌肥料 堅実で魅力ある農業に向けて |
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日本農業実践学園 学園長 籾山旭太さん |
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1.実践教育の現状と土壌医との出会い
本校は55haの農場で「実践教育」を続けて93年目に入ります。実習主体の内容で農業者育成に日々あたっています。
基本的な農作業・技術について学生たちはどんどん吸収していきますが、土壌に関しては農場職員の経験則と学科での基礎知識の結びつきが弱く、なかなか説得力ある教育ができていないのが実情です。「農業は土づくりが大事」と誰もがわかっていることですが、土壌肥料を教育として扱うことは教員にとっても高度な職務と感じていました。
「土壌医」という資格は以前から知っていましたが、日本土壌協会主催の土づくり実践研修会が県内で開かれるとHPで見つけ、どんなものか受講してみました。参加した結果、自分自身の理解が非常に乏しかったのを痛感するとともに、グループワークでご一緒した他の参加者の方の知識の深さに大いに刺激をもらいました。それ以来、早速参考書を取り寄せ、試験に向けて勉強を開始しました。
2.土壌医検定に取り組んで気づいたこと
土壌医関連の参考書を勉強してみて以下のようなことに気づきました。
①生産現場で必要とされる内容が体系的に整理されていること。
土壌の分類から化学性、物理性、生物性、作物別の土壌管理と順良く整理されており、授業の説明としてもこの流れが良いと感じました。
②pHや塩基飽和度等、基本的な用語を理解するための図表が豊富であること。
基本事項の説明は学生には難解な場合が多い気がします。簡潔に伝えるには良い図表が揃っていると感じました。
③土壌だけでなく栽培基礎の勉強にも繋がること。
学生たちは野菜、稲作、果樹など専門分野に分かれていきますが、専門外の分野の理解が皆無になったり浅くなりがちです。幅広い分野の基礎を身につける上でも有効だと感じました。
④3級から専門家向けの1級(土壌医)まで繋がっている資格制度であること。
学生の3級合格をサポートし、教員は2級、1級を目指すことで、互いに学び合いが可能な良い制度と感じました。職員のスキルアップの制度としても良いと考えます。
3.土壌肥料を安定生産に繋げる
座学で終わってしまうと農業教育としては不十分だと考えています。作付け前の土壌調査、日々の圃場巡回、収量調査と跡地の各種分析を通じて安定生産に繋げるところまでが大事だと考えています。
特に研修会で有効だと感じたのは、作柄の良い圃場と悪い圃場の分析値を同じ表にまとめ、土壌改良の目標を検討することです。本校では地域柄サツマイモの圃場が多く、作柄の良し悪しを3種類に分けて土壌分析のデータを並べました。正解は一つとは言い切れませんが、学生職員同じデータを見て、参考書で調べながら判断をします。化学性だけでなく物理性改善のためのプラソイラでの深耕も提案があがり、内容にも広がりが生まれました。
4.これから 堅実で魅力ある農業に
土壌医検定3級合格を一つの目安に参考書を通じて指導をしていきます。さらに“活きた知識”となるよう圃場の状態や収量、経済性と関連付けて実習を行っていきます。圃場でもpHやEC、土性、ち密度等の簡易調査と定期的な土壌分析でより堅実な農場運営ができればと考えています。
これからはドローンのセンシング技術で生育状況を把握し、土壌分析値や収量と関連付けると面白いと考えています。土と空の両方からアプローチすることで、魅力ある農業ができるのではないかと期待しています。
農業、特に土づくりは科学的根拠よりは経験則の判断になりがちです。経験の浅い新規就農者にとっては、土壌医検定を通じて着実に理解を積み上げた方が近道だと考えます。さらに2級、1級レベルを目指すことで、将来的に収量向上やコストダウンによる経営の改善にも繋がるのではないかと思います。